客商売で必ず遭遇する有名なお客さん。今回は私が出会った有名なお客さん達の話。
学生のころを思い返すと、引っ越し、居酒屋、コンビニあるいはレポート代筆など、様々なバイトに手を染めた。
振るわない学業にそっぽを向いて、日々遊ぶ金を稼せいでばかり、否、労働の尊さに希望を見出していたのである。どの職場も、それぞれ怪しげなDVD屋の看板の色よりも濃い特徴があったが、なかでも色んな意味で記憶に残っているのは意外にも「ドラッグストア」のバイトだ。
数年前、2回目(!)の大学4年生のころ、私は地元の某ドラッグストアでアルバイトをしていた。それまでは概ね大学の近く(東京)で職を探していたのたが、卒業単位もほぼ確保し学校へいく機会が激減したこともあって、学生時代最後のバイトは地元の店舗を選んだ。
当時の私は、人間の坩堝たる東京の密集感にほとほと辟易しており、また「地元の閑散とした店舗ならきっと勤務も楽だろう」などという浅薄な懶惰思想に足先から頭までずっぽり漬かった、文字通りの浅漬け人間だった。だが、この考えは当然甘かったようである。
実際、東京の店舗に比べれば来客数や回転数には雲泥の差があった。正直、勤務時間中は割と暇だったし、仕事自体は楽だった。だが、東京と少々違ったのは「有名なお客さん」の出現頻度だ。
東京でもドラッグストアで短期のバイトをしたことがあったが、もちろんそちらでも酔っ払いやクレーマーっぽいのは複数いたが、流動性の激しい都会では大体が一過性のもので、嵐のように去ってその後は当分顔を見ないことが多かった。
しかしベッドタウンたる我が町では、残念ながら「有名人」諸氏も土着しがちである。とにかく毎日必ず数人の「有名人」が代わる代わるご来店なされるのだ。以下、なかでもよく記憶に残っている有名人を数名紹介したい。
「ひとりごとおじさん」
50代後半くらいの男性、わりと出現率高め。名前の通り、常にひとりごとを言っている。ひとりごとの内容は日常的な鬱憤であったり、政治批判であったり割と多岐にわたる。ただ一人でしゃべっているだけなら特に害はないのだが、たまにひとりごとの怒りを店員に投げつけてくるのが厄介。
しかも、店員に対してだけならまだいいが、偶然居合わせた無関係のお客さんにも食ってかかるので一触即発の猫の喧嘩のごとき事態になることも多々あった。また、店員のなかでも特に店長が嫌いらしく、店長が品物の整理をしているだけで「客にケツを向けるな!」とお叱りの声を度々いただいていた。変な人ではあるが、悪い人ではない。
「猫おばちゃん」
60代後半くらいの女性、出現率はかなり高い。名前の由来は、毎度猫の餌を大量に買っていくことから付いた。猫の名誉の為にも先に断わっておくが、猫のようなおばちゃんでは決してない。性格は大変せっかちで、レジ待ちのお客さんを横から抜かしたりするので、お客さん同士で頻繁にもめる。挙句の果て、先に並んでいたお客さんに言い負かされて、しぶしぶ後ろに並んだ後に「レジが遅いんだよ!」と店員へお叱りの声をかけてくださるなど心遣いに長けたお客様。
また、お試し用の化粧品(お客様共用)でがっつりメイクをするなど、おしゃれにも余念がない。もちろん口紅も。あの店舗の界隈ではマルチ・トラブルメーカーとして今でも名を馳せている模様。
「某高級アイスおじさん」
70代くらいの男性、出現率は低い。時折有名な高級アイスを買いに来るおじさん(おじいさん)。普通に買いものをするのだが、一度帰宅後また即日戻ってきて「専用のスプーンが入ってなかった! 金返せ!」と毎回怒鳴り込んでくる。なお、カメラでも確認したがスプーンは入れている。しかもおじさんの買ったアイスは既に食べ終わっており、証拠として持ってくるのは「フタ」だけである(レシートなし)。最後は腹いせに社外秘資料(ゴミみたいな社内報)を盗んでいくなど、なかなかクレイジーなおじいさん。なお、次来たら通報される模様。
この他にも、あまり大きな声では言えないようなタイプの方(シャ○中おじさん等)が複数いらっしゃいましたが、皆さんなかなかキャラが濃くて単調な作業のいいスパイスになる……かもしれません。さすがに頻繁にやられると正直めんどくさいですがね笑
なお、最後に補足しておきますが、来店されるお客さんの99%はいい人です。ただ残りの1%のアクセントが強すぎる為に記憶に残りがちなのです。
以上、これから地元で働いてみようと考えている皆さんも、心してアルバイトライフを楽しんでください!